みずほ銀行ATM計画停止の裏で~ITエンジニアの現場と本質的な課題~
本屋でこんなものを見つけてしまいました。
https://www.nikkeibpm.co.jp/item/nc/568/saishin.html
2019年7月13日未明から16日朝にかけて行われたシステム移行をもって完了した、 みずほ銀行の基幹システム完成についての特集です。
2018年の9月から複数回に渡って全国のATMが停止し、当時は、「また止まるのかよー」みたいな会話を道端でたくさん耳にしました(笑)
ちなみに、個人的にはこの動画が好きでした(笑)
今回の日経コンピュータの特集を参考に、本件のまとめと、自身の見解をお話しできればと思います。
版権を考慮し、基本的にインターネット上に公開されている情報のみを記載します。
目次
- 勘定系システムの刷新の概要
- 新勘定系システム完成によるメリットは?
- みずほのシステム刷新から思うこと
- 絶対に止めてはいけないシステム。それってつまり。。。
- 止めてはいけないを実現する徹底管理の裏に潜む非効率と折衷案
勘定系システムの刷新の概要
まず、勘定系システムとは、企業や行政機関において会計勘定処理を行うシステムのことです。
みずほ銀行が日本の三大メガバンクと呼ばれていることからも想像つくかとは思いますが、今回取り上げる、基幹システムは国内最大級のシステムです。
どれだけ大きいかというと以下の通りです。
項目 | 数字 |
---|---|
投資額 | 4000億円 |
開発規模 | 35万人月 |
開発期間 | 2011年から2019年 |
開発ベンダ数 | 約1000社 |
投資額の4000億円は、国内企業で年間売上高350位前後の良品計画やヤクルトの年間の売上額に相当します。
また、ここでいう人月とは1人が1ヶ月で行う作業量を示します。
ちなみに、SIを行うエンジニアの仕事は、この人月をベースに割り振られます。
あれ、ってことは、「仕事ができる人の1人月もサボリーマンのの1人月も同じってこと?」って思ったそこのあなた!
僕からは回答は言えないので聞かないでください(笑)
過去に書いた記事を参考にしていただけると、何となく想像がつくかと思います。
話が少々それましたが、この35万人月をスカイツリー建設に換算するとスカイツリー7本分に相当するそうです。
開発ベンダ数の約1000社は、国内のITベンダの1割を占めるとされます。
なお開発ベンダのうち、最上流と言われる工程を担う企業は、日本IBM、富士通、日立製作所、NTTデータでした。
新勘定系システム完成によるメリットは?
この部分は公式でも発表がありますが、私のほうでも簡単に記載します。
SOAによる保守の効率化
SOAはService Oriented Architectureの略で、機能を独立したサービスごとに実装し、それらを組み合わせてシステムを作るといったものです。
家を例に挙げると、今まで「家」という単位で作っていたものを、「台所」、「寝室」、「風呂場」など独立のサービスを作ってそれらの組み合わせで、家を構成するイメージです。
伝わるかな。。。
この利点は、ニーズに合わせて部分部分で柔軟に対応することができる点です。
例えば、リフォームというと、家ごとリフォームするしかなかったものが、「風呂場だけ」であったり、「台所だけ」であったり、該当箇所以外には影響与えず、改修できます。
また、これにより、リフォーム業者に頼まずとも、「台所リフォーム専用」の人に頼んだり、はたまた、Youtubeを見ながら自分自身でリフォームを行えたり、特定の箇所のみ専門的に対応できるような点も特徴ですね。
意味が伝わりにくければ、お手数ですが、調べてください。。。
メインフレームを減らしオープン技術を採用
メインフレームとは、まだパソコンの性能が今ほど高くなかった時代に、日本IBMや富士通、日立製作所などが、企業のホストコンピュータように開発し納入していた、巨大コンピュータのことです。
対になる言葉は、オープン系と言われます。
メインフレームと違って、複数ベンダのパーツを組み合わせるため、柔軟性が高い半面、安定性に欠けると言われています。
今回、みずほでは、従来システムで19台あったメインフレームを4台にまで減らしました。
これにより、今後、開発言語が変化した場合や新たなソフトウェアが採用された場合にも柔軟に適応できます。
APIの提供
最後にもう一つ、2020年度には、当該システムにおいて、APIと呼ばれるインターフェースの提供が行われる予定だとのことです。
これにより、将来的にはみずほのシステムとアプリケーション連携ができるようになるため、家計簿アプリとの連携をはじめとした、個人ユーザーでの開発もできるようになります。
みずほのシステム刷新から思うこと
ここからは個人の見解てんこ盛りになります。
現場で働くエンジニアとして、今後、金融機関をはじめとした日本の組織がITで成長する未来を望む者として、お話しできればと思います。
絶対に止めてはいけないシステム。それってつまり。。。
私自身も当然に考えている、金融機関のシステムは絶対に止まってはいけないということ。
ATM自体もそうですよね。
この考え方、確かに生活者目線では当然ですし、財政基盤が安定稼働していることは国の力を示すことになりますからね。
ただ、この安定稼働がどれだけ難しいかを想像するとお腹痛いです(笑)
全国にあるシステムが互いに連携して動き続けていることは奇跡みたいなものだと僕は思います。
先日、AWSの東京リージョンが大規模障害になったことからもわかる通り、世界トップレベルの企業が作り上げるシステムでさえ止まります。
メガバンクとはいえ、金融機関のITシステムを安定稼働させるのがどれだけ大変かを考えると。。。
金融機関はシステムを自分達だけでは運用できないので、ベンダーの手を借りざるを得ません。
止めないために、土日はおろか、深夜も呼び出されて仕事をする人がいるから止まらないわけです。
これからもわかる通り、IT企業がブラック企業とよばれる背景には「絶対に止めてはいけない」に潜む遠回しなストレスが影響していると考えています。
この労働環境を改善するためにも、自社でエンジニアをかかえ、経営判断として、人任せでなく自身で運用することがユーザー企業にも求められると思います。
ITを活用するってことはそういうことです。
AIもFintechも暗号資産(仮想通貨)も買い物じゃないことを肝に命じてほしいと思います。
ただ、システムを提供するベンダーも責務を十分に果たしているかと考えると疑問です。
提供システムは最新の技術ですか?本当に提供先の組織のためになっている選択ですか?
これらについて、「絶対に止めてはいけない」を実現するための管理と絡めて別の観点から話します。
止めてはいけないを実現する徹底管理の裏に潜む非効率と折衷案
今回のみずほのシステムの件でもそうですが、システム開発においては事故を起こさないように、問題を起こさないために徹底的なプロジェクト管理とリスクチェックが行われます。
もちろん、高い品質で提供することはとても大事ですし、企業としての価値も品質の高さが影響するといっても過言ではありません。
ただ、現場で感じるのは、過剰な管理をしていませんか?ということです。
もともとは、品質向上のために考えられた管理手法やチェック技法が染み付いて、「資料を作ること」、「承認を得ること」が目的になっているケースが多々あります。
結果、非効率な働き方、仕事のための仕事が大量に生まれます。
さらに、承認を通すことが目的になった結果、過去の実績や国内サポートがある技術の提案しかできなくなるケースが生まれます。
つまり、社内外への保険としての証跡作成に追われた挙げ句、提案するシステムは最新鋭の技術とはほど遠いものになります。
働き方改革およびデジタルトランスフォーメーションの両方と逆行することをIT企業がしてしまっていることを個人的には悲しく思います。
日本にはまだまだ、刷新が必要なシステムがたくさんあります。
そして、自動運転やAIの実用化はすぐそこまで来ています。
海を渡った先では、実証実験がすでに始まっているものも多々あり、それらの実績が出れば、普及はあっという間でしょう。
時代は違いますが、結果として、江戸時代の鎖国に似たようなことになっていないでしょうか?
海の向こうで起きている産業革命に置いていかれていないでしょうか。
個人的には、まだ、海外と競争できる力はあると信じています。
手遅れになる前に、まずは国内の意識を変えて、どんどんビジネスを前に進めていくことが大事だと思います。
そして、新しい技術を学び、適応し、日本企業の更なる発展を実現することが、エンジニアのミッションなのだとも思っています。
まぁ、自分にはまだ能力も人格もまだまだ備わっていないので、来るべきその瞬間までにより成長しなきゃなとは思うわけです。
長い文章でしたが、読んでいただきありがとうございました。